国際仏教学大学院大学
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    第3回公開研究会発表要旨



       林寺 正俊 (国際仏教学大学院大学 学術フロンティア研究員)

日本古写経中の『五王経』について
 
 『五王経』は東晋代(西紀317-420年)の訳とされる一巻の経典である。本経の内容は、互いに良き友人同士であった五人の王が仏による苦諦(=八苦)の説法を聞いて学道を得、そろって王位を捨てて出家したというものである。短い経典ではあるが、世俗的享楽が無常であることや苦の有様をリアルに説いているため、『宝物集』などの日本の古典文学作品にもしばしば引用されるほどの影響を与えたものである。
 
 この『五王経』は我が国の古刹に蔵される古写経中にも見られるが、名古屋市にある七寺所蔵の平安末期写本と大阪河内長野市にある金剛寺所蔵の鎌倉時代写本が、現行の『大正新脩大蔵経』第十四巻に収められている『五王経』とは幾分異なっていることが判明した。具体的には、苦諦の内容として仏によって説かれる八苦の配列順が異なっていたり、訳語にも若干の相違が見られたり、また訳文自体にも詳細な箇所と簡略な箇所とが見られるのである。ただし、これらの相違を除けば、全体的に見て大部分の訳文は全く同じである。

 では、以上のように異なる日本古写経中の『五王経』とは一体いかなるものなのだろうか。初めから独立に存在していた異訳なのか。それとも、どちらか片方の『五王経』が他方の『五王経』を編集して成立したものなのか。あるいは、そもそも中国で作られた疑偽経なのか。本発表では、我々の前にあらわれた二種類の『五王経』に見られる相違点に注目しながら、両『五王経』の関係について考え得る可能性を提示し、その上で、日本古写経中の『五王経』の位置について考察する。
  
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