国際仏教学大学院大学
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    平成21年度 公開シンポジウム発表要旨


今西 順吉(国際仏教学大学院大学教授) 


『中論』成立の背景 


 『中論』が独自の縁起説を説いていることは広く認められていながら、その縁起説の由来は不明である。
 そこで注目されるのが漢訳雑阿含経にある「第一義空経」である。この経は最後に12縁起を「俗数法」と呼んでこれを提示するが、前半では12縁起で説かれる「生・滅」について「来・去」という視点から批判的に吟味している。この経には「空」の語は経名以外には見出されないが、この経は原始仏教の12縁起を空の立場から批判的に考察しようとしたものと見ることができる。
 『中論』は第1章の「縁の考察」、すなわち縁起の基本となる「縁」の観念を生滅の視点から検討している。そして第2章では「行く」の諸問題を論じているが、これは「第一義空経」が「来・去」を批判するのに対応している。『中論』第3章以後は同じ批判的立場から他の諸問題を吟味し、第26章では12縁起を単に提示するにとどめる。
 以上のように『中論』を「第一義空経」と比較すると、『中論』が阿含経の中の空思想を継承発展させたものであることが明らかとなる。
 「第一義空経」と比較するならば、『中論』の本論は以上で終わっていると考えることができる。『中論』はその後に第27章において「邪見」を論ずるが、この構成は『倶舎論』が本論の後に「破我品」を置いていることを想起させる。
  
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