日本古写経善本叢刊 第一輯
『玄応撰 一切経音義二十五巻』

中国唐代(7世紀)に玄応が撰述した『一切経音義』は、一切経に見られる難解な語句の読み(音)や意味(義)が記された辞書です。唐代初期の音が反映されていることから、特に、中国言語学(音韻学)で重視され、また、日本の古辞書の主要出典であることから、国語学においても研究されてきました。さらに、450以上の仏典を収録することから、当時通行していた仏典の種類や内容を知る手がかりとして、仏教学においても重要です。

本書には、金剛寺蔵鎌倉中期写本21巻分、七寺蔵平安後期写本20巻分、東京大学史料編纂所蔵平安後期写本(七寺一切経)巻15、京都大学文学部蔵平安後期写本(石山寺一切経)巻6・巻7、西方寺蔵鎌倉中期写本9巻分の計53巻分の影印を収めています。

日本の古写伝本は、敦煌吐魯番写本断簡と同様に、唐代の原本に近いテキストを伝えていると考えられます。既に、『古辞書音義集成』7~9(汲古書院、1980-81年)によって、法隆寺一切経本(宮内庁書陵部蔵大治3年(1128)書写)や石山寺一切経本(広島大学、天理図書館蔵、平安後期書写)が紹介されていますが、全巻揃うものではなく、欠巻部分は同系統の版本(高麗版大蔵経)で補うしかありませんでした。本書は、その欠巻を補うばかりでなく、異同の多い伝本間の比較考察を可能とし、『玄応音義』の古い姿を導き出すものです。

解題は、高田時雄、落合俊典他。仏教研究からの利用の便を考え、『大正新修大蔵経』の経典番号による収録経典索引を付してあります

内容

  • 日本古写経善本叢刊発刊の辞 – 今西 順吉
  • 刊行の経緯 – 落合 俊典
  • 玄応音義について – 高田 時雄
  • 『玄応音義』書名攷
    -『大唐衆経音義』から『一切経音義』へ – 落合 俊典
  • 玄応撰『一切経音義』書誌
    金剛寺・七寺・東京大学史料編纂所・西方寺蔵
  • 玄応撰『一切経音義』について
    箕浦 尚美
    京都大学文学部国語学国文学研究室蔵
  • 玄応撰『一切経音義』について
    張 娜麗
  • 玄応撰『一切経音義』影印細目次
  • 大正新脩大蔵経番号に依る玄応撰『一切経音義』収録
    経典名索引
  • 影印本文
    金剛寺蔵 玄応撰 一切経音義
    七寺蔵 玄応撰 一切経音義
    東京大学史料編纂所蔵 玄応撰 一切経音義
    西方寺蔵 玄応撰 一切経音義
    京都大学文学部国語学国文学研究室蔵 玄応撰 一切経音義