HOMEお知らせ日本古写経研究所平成27年度 第2回公開研究会

平成27年度 第2回公開研究会

日時

2015年11月7日(土)午後3時~午後4時30分

会場

国際仏教学大学院大学 春日講堂
東京都文京区春日2-8-9
アクセス

発表者

藤原 智(親鸞仏教センター 研究員)
日本古写経『弁正論』と親鸞『教行信証』

【発表要旨】

浄土真宗の祖と呼ばれる親鸞(1173~1262)の主著『顕浄土真実教行証文類』(以下、『教行信証』)全六巻中、最後の「化身土巻」に唐の法琳(572~640)の著『弁正論』が長く引用されている。『教行信証』は浄土真宗の根本聖典として、親鸞の玄孫存覚(1290~1373)の『六要鈔』(1360)を始めとし、様々な点から詳細に研究がなされてきた。しかしながらこの『弁正論』の引用については十分な研究がなされているとは言い難い。その理由の一つとして、早く存覚が指摘しているが、『教行信証』における『弁正論』の引用文は原文と比較して相違が多く、非常に錯乱しているように見えるということがある。この問題の解決のために、これまで『弁正論』の諸本との比較が行われてきたが、その際に参照された『弁正論』は後代に開版されたものばかりであり、また親鸞の引用と合致するものは発見されていない。『弁正論』は『開元録』以来、一切経に入蔵され、日本おいても古くは『正倉院文書』の天平十九年(747)六月七日の書写記録にその書名が記されている。近年の研究では、この奈良写経は後代に開版された一切経とその系統を異にし、唐代のテキストを遺すものだと指摘されている。そこで本発表は、平安~鎌倉期に書写された金剛寺・七寺・興聖寺の一切経中の『弁正論』に注目する。これらは奈良写経の系統を伝えている可能性が高く、また時代的にも親鸞が底本としたものと非常に近いのではないかと推測される。これら日本古写経『弁正論』から、親鸞の時代に流布していた『弁正論』がどのようなものであったのかを検討し、『教行信証』との影響関係を考察していく。

佐々木 勇(広島大学大学院 教授)
春日版「五部大乗経」本文と底本選択理由

【発表要旨】

発表者は、鎌倉後期開版春日版「五部大乗経」の底本について、近く公表の論文において次のことを述べた。

『大方等大集経』『大方広仏華厳経』『摩訶般若波羅蜜経』『大般涅槃経後分』の底本は、宋版一切経・思渓版である。
『大般涅槃経』の底本は、宋版一切経・東禅寺版補刻本である。ただし、春日版「五部大乗経」は、日本伝来の古写本本文をも取り入れている。

本発表の目的は、次の二点である。

A.鎌倉後期開版春日版「五部大乗経」が宋版の単なる覆刻ではなく、日本伝承古写経本文を取り込んでいることを示す具体例を追加すること。
B.春日版「五部大乗経」の底本選択の理由を考察すること。

検討の結果、上の目的について次のことが知られた。

A.鎌倉後期開版春日版「五部大乗経」が宋版の単なる覆刻ではなく、日本伝承古写経の本文を取り込んでいることは確実である。
春日版は、宋版に基づいて製版した後、日本古写経との本文校合作業を経て、日本古写経本文と一致する字句に補訂している場合が有る。
B.右の事実から、春日版「五部大乗経」が思渓版または東禅寺版を底本として選択したのは、他の宋版一切経と較べて、『大方等大集経』『大方広仏華厳経』『摩訶般若波羅蜜経』『大般涅槃経後分』については思渓版が、『大般涅槃経』については東禅寺版が日本古写経に近かったためである、と考えられる。

思渓版は、宋版諸本中、日本古写経に近い本文を有することが多いようである。尊氏願経・北野社一切経などの底本として思渓版が採用されたのも、そのためであろう。また、嘉慶二年(一三八八)奉納の日光山輪王寺蔵五部大乗経も、思渓版を底本とするらしい。その後、寛永十四年(一六三七)開版天海版の主たる底本ともされたことは広く知られている。
しかし、宋版に基づく書写・刊刻は、底本の宋版本に全面的に依拠するものではなかった。  春日版についても、鎌倉中期~後期に、写本による校合が行なわれていたことが指摘されている。
本発表で採り上げた鎌倉後期刊春日版「五部大乗経」の場合も、日本古写本に近いか否かで底本が決定され、本文彫刻後の校合に日本古写本が用いられたと考えられる。
仏教諸学の研究では、日本古写経と並んで思渓版を初めとする宋版テキストをより一層活用すべきであろう。

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〒112-0003 東京都文京区春日2-8-9
電話 03-5981-5271
FAX 03-5981-5283
Email nihonkoshakyo14◆icabs.ac.jp(◆をアットマークに変えてください)

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