HOMEお知らせ日本古写経研究所『大乗義章』のテキストの諸系統について

『大乗義章』のテキストの諸系統について

平成26年度国際シンポジウム発表要旨
岡本 一平(恵泉女学園大学 非常勤講師  慶應義塾大学 非常勤講師)

近年、国際仏教学大学院大学の日本古写経研究所は、金剛寺の調査により、浄影寺慧遠(523―592)の『大乗義章』の平安末期の写本、及び、その構成を記した『大乗義章義目』を発見した。この発見は、『大乗義章』のテキストを考える上で大きな示唆をもたらした。金剛寺本は、大正大蔵経に収録されるテキストとは構成も異なり、義目の数も異なることが判った(二義目多い)。この発見に啓発されて、本発表の目的は、主に日本に流伝した『大乗義章』のテキストを比較対照し、『大乗義章』のオリジナルテキストについて考察する。考察の対象の中心は、大正蔵本(延宝二年版本)、金剛寺蔵本、そして、日本撰述仏教文献に引用される諸テキストである。そして、その後、田戸大智氏を中心とする日本古写経研究所の継続調査によって確認された東寺観智院蔵本(12巻分)、東大寺蔵本(3巻分)、正倉院聖語蔵本(3巻分)、随心院蔵本(1巻分)、身延文庫蔵本(6巻分)についても勘案する。
慧遠の著作の成立順序は、拙論や池田將則氏の諸論文により解明されつつあるが、最大の難問は、『大乗義章』の成立問題にある。その理由は主に三点である。第一に、『大乗義章』の各義目は、一時期に執筆されたか否か、確定されていない。第二に、現行『大乗義章』は全て慧遠の撰述か否か確定されていない。第三に、一般に使用する大正蔵本(江戸版本)は、慧遠の編集本か否か確定されていない。第四に、現行『大乗義章』の特徴が解明されていない。
この内、本発表は第四の問題を主眼に考察する。金剛寺本の発見によって、大正蔵本は慧遠の編集本ではないことは判明した。しかし、金剛寺本も慧遠の編集本とは言えないと思われる。そこで、上記の諸本を比較対照することによって、『大乗義章』のオリジナルテキストを想定することを、本発表の課題にしたい。

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