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―論義書を中心に―

『大乗義章』の修学について
―論義書を中心に―

平成26年度国際シンポジウム発表要旨
田戸 大智(国際仏教学大学院大学附置日本古写経研究所 特任研究員  早稲田大学文学学術院 非常勤講師)

浄影寺慧遠(523~592)の主著とされる『大乗義章』の日本への受容をめぐっては、延喜14年(914)に醍醐天皇が勅命によって献呈させた『華厳宗章疏并因明録』や『三論宗章疏』等の目録に20巻として書名が見出されるが、既に願暁(?~874)が『金光明最勝王経玄枢』10巻において、三論教学の立場から『大乗義章』を活用していることは注目される。ここで重要なのは、願暁が密教について言及しているという点である。つまり、願暁は三論と密教を兼学していたのであり、こうした学問的姿勢は弟子である聖宝(832~909)にも継承され、東大寺東南院や醍醐寺等、聖宝が創建に関わる寺院で次第に醸成されていくことになる。
『大乗義章』もまた、三論と密教の兼学化を背景に修学の対象として取り上げられ、特に院政期頃に東大寺三論宗だけでなく密教とも深い関係にある覚樹(1081~1139)や寛信(1084~1153)、珍海(1092、一説1091~1152)等の学僧によって盛んに研究されるようになった。そうした様相は、現存する『大乗義章』の論義書、すなわち身延文庫蔵「大乗義章抄」・東大寺図書館及び聖語蔵『義章問答』・真福寺大須文庫蔵『義章要』等の資料から窺知することができる。
この中、身延文庫蔵「大乗義章抄」は、寛信が東大寺三論宗における「大乗義章三十講」の内容を抄筆したものと推測され、13冊が残存している。また、同じく『大乗義章』の論義をまとめたのが頼超(~1182~)記『義章問答』であり、巻2が東大寺図書館、巻3・4・5が聖語蔵に収蔵されている。更に、『義章問答』と密接な関連があると推測されるのが、増玄(~1195~)記『義章要』巻5・6(合本)である。
本発表では、主にこうした論義書を俎上に載せて比較分析することにより、従来殆ど注視されることがなかった日本における『大乗義章』の修学実態について解明することを目的としている。特に、『大乗義章』が東大寺や醍醐寺は勿論のこと、仁和寺や勧修寺等の密教寺院でも三論教学の研鑽と併せて論義されていたと推察されることから、密教との関連性にも論究することにしたい。

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