HOMEお知らせ日本古写経研究所平成30年度 第2回公開研究会

平成30年度 第2回公開研究会

日時

2018年11月10日(土)午後3時15~午後5時00分

会場

国際仏教学大学院大学 春日講堂
東京都文京区春日2-8-9
アクセス

発表者

伊久間 洋光(大正大学綜合仏教研究所研究員・真言宗豊山派総合研究院宗学研究所研究員)
「七寺一切経における二種の不入蔵『密迹金剛力士経』について」

【発表要旨】

竺法護訳『密迹金剛力士経』(以下『密迹経』)は〈如来秘密経〉の現存する漢訳二種の一つであり、288年に訳出されたと伝わる。発表者はかつて、〈如来秘密経〉が玄奘訳『大般若波羅蜜多経』第六会として異訳される『勝天王般若経』の主たる編纂材料であることを報告した。また『密迹経』は『大智度論』に多く引用され、東アジア仏教に大きい影響を与えたと考えられる。

現在、大正大蔵経等に収められている『密迹経』は、菩提流志により『大宝積経』訳出時に第三会(「密迹金剛力士会」)として編入されたものである。『大宝積経』に編入された経典は別本として大蔵経に収録しないという後代の経録の方針により、元来の『密迹経』は単独の経典としては入蔵されず、散逸したものと考えられていた。然るに1990年、落合俊典教授の報告により、名古屋市中区の七寺が蔵する所謂七寺一切経が多数の古逸経典を収めていることが明らかになった。そのうちには『佛説密迹金剛力士経』第二・第五・巻上・巻下という4本の『密迹経』の写本が含まれていた。

落合教授は七寺一切経現存目録に、『貞元録』の不入蔵目録と東寺一切経目録の不入蔵目録とを対照させている。それによって、七寺の不入蔵『密迹経』写本のうち、巻二・巻五は後に『大宝積経』中に編入されたものであり、巻上・巻下は別生経であることが示されている。しかし当該の写本について、それ以上の纏まった報告は未だなされていない。

本発表ではまず、諸経録の記述に基づき、当該写本の来歴を確認する。また、菩提流志は『大宝積経』四十九会に旧訳を編入させるに当たり、梵本と対照し、校訂を施したと伝えられている。その為、『大宝積経』の基礎研究も視野に入れながら、当該写本と『大宝積経』第三会の大蔵経諸本について、差異及び異読の共有関係を確認する。また当該写本がどのような読みを保持しているのか、同経典の梵文写本と対照させて例示する。さらに『密迹経』上下巻(二巻本『密迹経』)の別生経としての思想的意義を検討する。

ラポー・ガエタン(名古屋大学 特任准教授)
「偽経をめぐる書誌学—石山寺蔵『謀書邪法邪義抄目録』にみられる日本中世の“邪教”観—」

【発表要旨】

日本中世を通じ、真言密教内部では、いわゆる「邪教」に対しての言説が醸成された。こうした言説の対象は、性的な儀礼を行っていたと喧伝される「立川流」という異端的流派に集中している。当時の真言僧は、こうした異端的流派を批判しただけでなく、こうした流派に関する(と彼らががみなした)異端視されるべき書物を列挙した邪抄目録を編纂した。こうした目録の中でも、管見の限りでは最も古い例に属し、またそれゆえ後世の同種の目録への影響も看過できないのが『立川聖教目録』(1375年)である。この目録は、文字通り、立川流に関する聖教(簡単に言えば儀礼に関する書物・口伝の文字化)のリストで、現在は存在の確認出来ない書物も含めて350点以上が列挙されているが、残念ながら聖教の内容についての詳細な情報は得られない。『五蔵皇体経』や『薬法術経』など明らかに偽経と思われるものが散見されるが、そもそも実体として存在しなかったテクストも挙げられていた可能性は否定できない。こうした邪抄目録の作成は、実は中世というより近世になるにしたがい、より顕著となる。邪抄目録は、偽経だけでなく、広く偽書も扱っているが、中でも真言密教内で形成された偽経論を把握する上で、重要とみなされるべきなのが石山寺蔵『謀書邪法邪義抄目録』(17世紀後半に成立)である。

この写本は、仁和寺の僧、顕證(1597〜1678)により書かれたもので、同じく仁和寺の僧、亮深(?〜?)所蔵のテクストを、石山寺の尊遍(?〜?)が書写したものである。『立川聖教目録』に挙げられている書物のほとんどを網羅していることから、『立川聖教目録』を踏まえて作成されたことは容易に予想される。しかし、『謀書邪法邪義抄目録』が、前者より洗練されているのは、ある特定の書物がなぜ偽経、或いは偽書として分類されうるのか、という書誌学的定義が試みられているからである。また、偽経として分類されている経典には、『寶悉地成佛陀羅尼経』、『即身成仏経』など、現在も確認できる偽経がみられ、このリストが架空の書物名を安易に羅列したものではないことを物語っている。本発表では、『謀書邪法邪義抄目録』にみられる正邪の判断基準を分析することを通じ、中世以降の真言密教内の偽経論を追究したい。

日本で書写された経典の中には、後に大蔵経に入ることになったような、正統な経典とみなされたいわゆる古写経もあれば、日本で作成された偽経もある。「偽経」を挙げることで正邪の教えの分別を図るのは、すでに日本が経典を輸入した先である中国で始まった伝統である。『謀書邪法邪義抄目録』にみられる正邪論もこうした大きな仏教学の潮流に与するものである。本発表を通じ、日本における邪教観の一端を探ることに貢献したい。

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