HOMEお知らせ日本古写経研究所令和4年度 第2回公開研究会

令和4年度 第2回公開研究会

日時

2022年11月12日(土)午後3時15~午後5時00分

会場

国際仏教学大学院大学 春日講堂
東京都文京区春日2-8-9
アクセス

発表者

万波寿子(鶴見大学 講師)
「智洞編『龍谷学黌内典現存目録』の特徴とその方向性」

【発表要旨】

 桃華坊智洞(1736~1805)、彼が近世の西本願寺教団においてその檀林の長であり、近世最大の宗教騒乱三業惑乱を引き起こして流罪の刑を受け、その執行前に獄死したことは夙に知られている。しかし、智洞が大規模な蔵書整理を行ったことや、ユニークな蔵書目録を編纂したことについては、これまで光が当たったことはない。

智洞の蔵書整理の成果を最もよく示すものは、龍谷大学写字台文庫に所蔵されている天明3年(1783)成立『龍谷学黌内典現存目録』五巻である。これは智洞が編纂した西本願寺檀林の蔵書目録だが、極めて特徴的な性格を持った本と言える。檀林の書庫とは別に保管されている大蔵経を、檀林の蔵書、つまり当時利用可能だったほとんどの仏書と合わせて独自に体系付けているのである。

西本願寺檀林には明の嘉興蔵大蔵経が入蔵しており、智洞はこれを利用しているのだが、そのままの配列で採用していない。一度バラバラにし、日本人の撰述を含めた仏書と合わせ、全体をインド、中国、日本の三つにわかち、それぞれを浄土教中心に配置している。よって、第一巻の最初に揚げられているのは『仏説無量寿経』となるが、智洞の属する浄土真宗の根本聖典『教行信証』などは、日本人の雑著のひとつとして後方に位置づけられている。

 この『龍谷学黌内典現存目録』について、本発表ではその特徴を紹介するとともに、その成立の背景やこの目録で智洞が目指したもの、そして智洞没後の享受について考察したい。近世仏教学は版本を中心にした豊かな書物文化をその基盤に持つ。当時は嘉興蔵の覆刻である黄檗版大蔵経がよく普及していた。かつ、当時は多くの真宗聖教の版株(出版権)を本山が掌握していった時期であった。こうしたことを背景として、智洞が世にあふれる仏書すべての大系を試みた可能性は検討されるべきだろう。

一方で、智洞が獄死したためこの目録は長く秘匿されることとなったが、目録に残された痕跡などから実際には相当数の学僧がこの配列を知っていた可能性がある。また、大正期に鷲尾教導は智洞に対して「明治に至り続蔵刊行之基礎を与へたる功は没す可らず」と称揚し、智洞の活動が近代の大蔵経刊行に与えた影響にまで言及している。智洞以降、この目録はどう享受されたのだろうか。当時の状況や近代までを考え、智洞の目録の性格や方向性を探りたい。

齋藤智寛(東北大学 教授)
「敦煌本『六祖壇経』整理の諸問題」

【発表要旨】

 報告者は『新国訳大蔵経 六祖壇経・臨済録』(大蔵出版、2019、以下「拙訳注」)において敦煌本『六祖壇経』の訓注を担当したが(『臨済録』は衣川賢次氏)、シリーズの性格上、作成した校訂本の原文を収録することは出来ず、校訂の理由も詳しく注記はしなかった。本報告は拙訳注における本文校訂の経験にもとづき、敦煌本『壇経』の本文整理における諸問題について考察するものである。発表は「一、書写の体裁について」「二、本文の字句について」の二部に分かれ、敦煌本5種のうちもっとも精善な写本である敦煌博物館77号本(以下、敦博本)を中心に検討する。

 まず書写の体裁について、敦煌本『壇経』の主要なテクストでは、内題と編者名の間に不可解な空格があること、尾題の後に「菩薩法号」なるやはり意味不明な文字列が書写されていることが、版本系諸本には見られない敦煌本の大きな特徴となっている。この2点について、拙訳注ではすでに結論のみを注として記したが、本発表では改めてその結論に至った思考過程を説明し、またその読解が『壇経』の内容や唐代仏教思想史への理解にいかに関係するか私見を述べることにしたい。

 次に本文の字句について、敦博本の特徴とその敦煌諸本における位置づけを考察する。敦博本にはあらゆる敦煌写本と同様に多くの誤写が含まれるが、本発表では敦博本もしくは敦煌本『壇経』に特徴的な誤写として、①仏教思想に理解があるための誤写、②敦煌諸本に共有される誤写の二点に特に着目したい。このうち①は、敦博本の筆写者が仏教教理について常識的な理解を有しており、それが妨げとなって『壇経』独自の主張を書き誤ったと思われる場合であって、これは筆写者の仏教理解の水準を考える手がかりでもあり、筆写者は意味を考えながら抄写していたのか否かという写本研究一般に広がる問題でもある。②に関しては、敦煌諸本相互の対校では解決できない本文について、拙訳書では省略していた校訂の理路を説明したい。

 また、敦煌諸本における敦博本の位置を明らかにするため、旅順博物館本(以下、旅博本)に見られる校訂について考察する。旅博本は敦博本に近似した本文を持つテクストで対校されており、そのことは敦博本もしくはその祖本の敦煌における規範性を示すものと考えられるのである。

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〒112-0003 東京都文京区春日2-8-9
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