HOMEお知らせ日本古写経研究所令和5年度 第1回公開研究会

令和5年度 第1回公開研究会

日時

2023年5月13日(土)午後3時15~午後5時00分

会場

国際仏教学大学院大学 春日講堂
東京都文京区春日2-8-9
アクセス

発表者

中野直樹(常葉大学短期大学部 専任講師)
「真福寺蔵『法華論』の訓点およびその訓読について」

【発表要旨】

鎌倉時代初期写、真福寺蔵『法華論』(以下、本書)の本文には当時の本文読解を示すヲコト点および仮名点をはじめとする訓点が巻末まで加点されており、仏教学だけでなく国語学的にも注目される資料である。本書はすでに先行研究において、平安中期頃の喜多院点資料として紹介されているが、本発表ではもう少し具体的に訓法などを検討してみたい。

今回は特に、訓法に新古があると指摘されてきた事象に注目し、本書の訓点がいつの時代の訓法を反映しているのかについて奥書も含めたうえで考察を行い、古い訓読形式をどれほど残しているのか、本書を言語資料としてどのように位置づけることができるのかなど、訓点の伝承性について触れる。

また、本書の訓点から想定できる当時の訓読についても考えたい。訓点資料を言語資料として活用しようとしたときに、移点や校合を経ていない、いわば一次加点の資料で、なおかつ奥書に加点者や加点時期が明記されているものが言語資料としては扱いやすい(移点や校合があればその際の改編や遺漏を考える必要性が生じ、奥書が無ければいかなる集団に属する人物の手によるものか、加点時期はいつかなどの問題が生じる)。しかしながら、移点・校合があったとしても、それによって言語資料的価値を一段落とすのではなく、それをも含めてその時代に本文が読解され受容されたことが重要であり、それが移点・校合された時代の訓読であることを評価すべきという見方が近年提出されている。さらに、おおよそ十二世紀以降に訓点は伝承性が強くなり固定化していくという見方に疑義が呈されており、鎌倉時代初期写の本書もまた訓点が固定化しておらず、未だ流動的である可能性もある。そのような、従来の見方とは異なる新しい考え方から本書を捉えなおしたい。

『法華論』自体については近年、訓読テキストがいくつか公刊されているが、本書の訓点から想定できる訓読と、近年の研究における訓読とでは異なっている箇所も多い。仏教学において訓点加点当時の訓読を知ることにどのような意味があるのかは今後の研究を俟ちたいが、ともかく、本書の訓読と近年の研究とで訓読がどのように異なっているのかいくつかの本文を比較する形で提示したい。

岩田朋子(龍谷ミュージアム 准教授)
「律蔵に説かれる布薩処について」

【発表要旨】

「パーリ律」において、布薩(uposatha)とは「出家者が15日毎に集まり、各自の修行生活が僧団規則に抵触しているかいないかを確認する集会」と規定される。仏教僧団にとっての布薩は、僧団の構成員である比丘・比丘尼らが自ら懺悔し、或いは相互に指摘して、常に清浄性を保持するための自浄機能を果たしていた。在家者からの布施によって出家修行生活を成立させていた仏教僧団にとって、布施に値する清浄な集団であり続けるために、布薩という集会は不可欠なものであった。

一方、在家者にとっては、一処に集合する清浄な比丘たちから法を聞くことが布薩の目的だ、とされる。「パーリ律」布薩犍度の冒頭には、布薩の日に比丘たちが沈黙していると「ブッダの弟子はなぜ説法しないのか?」と憤慨する在家信者の様子とともに、ビンビサーラ王からブッダに対する布薩開催の勧めが仏教僧団による布薩導入の因縁であったと述べられる。このことは『四分律』説戒揵度や『五分律』布薩法の記述にも共通する。

これらの布薩を行う際、とくに上座比丘が波羅提木叉(prātimokṣa / pāṭimokkha)を誦出して執り行う布薩では、一住処に一つの布薩処(uposathāgāra)を設けることが布薩犍度に明示される。「パーリ律」では布薩処に相応しい場所として、現前サンガが住するヴィハーラ、アッダヨーガ、パーサーダ、ハンミヤー、グハーから選ぶことと言及される。ただ、『四分律』では「王舎城の七葉樹窟や塚間や竹林迦蘭陀など複数の場所で比丘らが待機してしまったため、人数に合わせて一処に参集すること」とし、布薩を行う場は説戒堂と定められる。『五分律』では「露地で布薩を行い比丘達が風雨や虫の害に晒されたため、房を利用することが許可され、そこを布薩堂と定めた」などとある。

 さらに、布薩処は布薩の度に設けられるため、布薩が始まる前に掃き清めて坐を設け浄甁や燈明など諸々の資具を準備する必要がある。律蔵からは、それらの責任者となる上座比丘の存在を読み取れる。布薩処の規模についても、「パーリ律」では参加する比丘らがすべて入堂出来ない場合、波羅提木叉の誦出が聞こえる範囲の堂外が認められることもある。

今回の発表では、仏教僧団における布薩開催と布薩処に纏わる因縁譚に焦点を当て、諸律の異同を少しく整理したい。

問い合わせ

*参加ご希望の方は、電話、ファックス、葉書または電子メールにて、

5月10日(水)までにお申し込み下さいますようお願い申し上げます

お申し込みはこちらへ

国際仏教学大学院大学 事務局
〒112-0003 東京都文京区春日2-8-9
電話 03-5981-5271
FAX 03-5981-5283
Email nihonkoshakyo14◆icabs.ac.jp(◆をアットマークに変えてください)

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